ねじの締結

1. ボルトやねじ類の引張強度について

1.降伏点と引張強さと保証荷重の違い
ボルトやねじ類の引張強度には、降伏点(または、耐力)と引張強さと保証荷重があります。この三者を比較すると、次のような関係になります。

引張強さ:図に示すように、引張強さは塑性域にあって、引張力の最大値です。その単位は応力であり、N/m㎡ またはkgf/m㎡ で表します。
この引張強さに断面積を乗じたものが引張荷重となります。

引張荷重Ft=引張強さσs ×断面積As

降伏点:図に示すように、弾性域の終点であり、塑性域の始発点であり、両者の移行部分です。その単位は応力であり、N/m㎡ またはkgf/m㎡ で表します。

降伏荷重Fy=降伏点σy ×断面積As

耐力:ボルトやねじ類の材質、強度によっては、降伏点が明瞭に現れない場合があります。この時、引張試験において、0.2%の永久ひずみが残る点を耐力として降伏点と同じ扱いをします。

保証荷重:この荷重の値をボルトやねじ類に負荷しても、ボルトやねじ類のねじ部等に変形が残ってはならないという荷重です。引張強さや降伏点と同じ単位では、保証荷重応力と呼びます。

保証荷重Fp=保証荷重応力σp ×断面積As

なお、この保証荷重応力は、JIS B 1051 に規定されており、ボルトの強度区分によって異なりますが、降伏点(または、耐力) より低い値です。

 

【2.弾性域とは?  塑性域とは?

弾性域引張力に比例してボルトやねじ類には軸方向に伸びが生じます。引張力を0に戻すと伸びも0になり、ボルトやねじ類には何ら変形は残りません
この引張力と伸びの関係が比例する上限が降伏点です。通常の締付は、降伏点以下であるこの弾性域において行います。

塑性域:降伏点を超えて塑性域になると、引張力と軸方向の伸びの間の比例関係は失われ、引張力に対し伸びの量が大きくなります。引張力を0に戻しても、ボルトやねじ類には永久ひずみが残り長さは伸びが残って長くなり、軸とねじ部にはくびれが残ります。締付をこの塑性域で行うには、技術力と注意が必要となります。

 

【3.強度区分の記号について

強度区分を示す記号は、基本的に引張強さと降伏点の値を基準にしています。

強度区分 引張強さ 降伏点
JIS B 1051 10.9 1000N/m㎡ 900 N/m㎡
旧JIS 6T 60kgf/m㎡ 40kgf/m㎡
JIS B 1186 F10T 1000~1200 N/m㎡ 900 N/m㎡

 

2. 締付けられたボルトとナットのねじの状態

【1.ボルトとナットのねじのかみあい状態】
●ねじは、片側の面だけで接触しています。もう一方の面は、浮いた状態です。
【2.ボルトとナットのねじ間の荷重の流れ】
●ナットの座面側に応力は集中します。
【3.ボルトのねじ山別の荷重分担】

●ナット座面側第一ねじ山のねじ谷底に、全体の約1/3が集中します。
●ねじ山全体で、均等に分担するわけではありません。
【4.ねじの谷底の応力の分布】

3. ボルト、ねじ類の締付について

【1.締付トルクとは? 締付軸力とは?】

ボルトやねじ類を締付る場合、締付トルクの値を指標とすることによって付を行うことが多々あります。本来、部材を締結するということは、ボルトやねじ類に締付軸力を与えることです。しかし、実際にどの程度の締付軸力が与えられているのかを知ることは困難です。そこで、トルクレンチ等、簡単にトルク値を知ることができる工具を使い、その締付トルクを締付作業の指標として用います。締付トルクを管理することによって締付作業を行うことを一般にトルク法と呼んでいます。

降伏点に達するまでの弾性域では、締付トルクとそれによってもたらされる締付軸力との関係は比例関係にあり、トルクを2倍にすれば軸力も2倍になります。

降伏点を超えて塑性域まで締付ると、締付トルクと締付軸力との比例関係は失われ、ボルトやねじ類の伸びの方が優先するようになって、トルクは逆に小さくなり、やがてボルトやねじ類は破断に至ります。

 

【2.締付トルクの安全な範囲は?】

原則的に、締付トルクとそれによってもたらされる締付軸力との関係が比例関係にある降伏点以下の弾性域に、ボルトやねじ類の締付軸力を留めることが重要です。その理由は、トルクと軸力が比例関係にないと管理できないからであり、また、ボルトやねじ類の強度上の安全性を考えると、軸力を降伏点以下に留めたいからです。従って、締付トルクの安全な範囲の上限は、ボルトやねじ類の軸力が降伏点となる締付トルクということになります。
しかし、
①厳密には、同じ製造ロットであってもボルトやねじ類の降伏点にはバラツキがある。
②外部からの力が作用した時、ボルトやねじ類には締付軸力に追加する形で力が加わるため、降伏点近くで締付けると全体の力は降伏点を超えてしまうので、安全性を考慮する必要がある。
③後述するトルク係数により、同一トルクであっても軸力は変化する。
これらの条件を考慮して余裕をみておく必要があり、一般的には、降伏点の70%の締付軸力が導入される締付トルクが推奨されています。

 

【3.ボルトやねじ類の強度と締付トルクの関係は?】

ボルトやねじ類の引張強度が高くなると、当然、降伏点も高くなります。降伏点が高くなれば、必然的にボルトやねじ類の締付軸力も高い値を導入することができます。となれば、締付軸力を導入する手段である締付トルクも大きくなります。

 

【4.締付トルクの成り立ち】

ボルトやねじ類を締付る時、ボルトやねじ類の頭部またはナットを回転するために、回転モメントを与える必要があります。この回転モーメントを締付トルクと呼びます。ボルトやねじ類の頭部またはナットを回転する時、摩擦が生じるのは、ねじ面と座面の二ヶ所です。締付トルクは、このねじ面と座面で生じる摩擦力に対抗するモーメントとなるので、締付トルクはねじ面トルクと座面トルクの和となります。