ねじのゆるみについて

1. ゆるみとは?

ねじを締め付けると、ねじには「締付軸力」が生じ、締め付け直後にねじに発生する「締付軸力」を「初期軸力」と言います。ねじによって締め付けられた締付体は、さまざまな原因によって、使用中にその「初期軸力」が減少します。このようにねじに発生している軸力が低下することを「ねじのゆるみ」と呼びます。

2.ゆるみの原因と分類

ねじのゆるみは大別すると、ナットが戻り回転しないで生じるゆるみと、ナットが戻り回転して生じるゆるみに大別されます。

ゆるみの原因と分類

ナットの回転の有無 ゆるみの原因 ゆるみの程度
ナットが戻り回転しないで生じるゆるみ (1)接触表面の小さな凹凸や形状誤差部分のへたり

(2)ナットまたはボルトの座面部分の締付部材へのめり込み

(3)部材の間に挟んでいるシール等のへたり

(4)接触部分の微動摩耗

(5)外部からの熱影響

ある程度ゆるむとゆるみは停止することが多い。設計の見直しや増し締め等によって比較的簡単に解決する場合が多い。
ナットが戻り回転して生じるゆるみ (1)外部からの衝撃力

(2)締付部材間の相対的な変位

ゆるみは、停止すること無くゆるんでしまい、ナットが脱落したり重大事故の原因となることが多い。

ゆるみの原因については、単独でゆるみを生じることもありますが、多くの場合は複数の原因が重なってゆるみを発生させます。

 

3. ゆるみの原因 〜ナットが戻り回転しないで生じるゆるみ〜

⑴ 接触表面の小さな凹凸や形状誤差部分のへたりによるゆるみ

一般的に、ねじ締結体においての接触面は図のように、締結された時に導入された軸力によってもたらされる圧縮力のもとで接触しています。これらの接触面において、加工の際にできた小さな凹凸や形状誤差が、外部から作用する力によって修正されて面の表面が平坦化し、締結長さが減少することになり、軸力が減少してゆるみを生じます。このようなゆるみを「初期ゆるみと呼び、大半はある程度ゆるんだ後は、ゆるみの進行が停止します。

この場合は、増し締めを行って初期締付の状態に戻すことで解決することが多く、また、設計の段階で軸力の低下量を予測して、ボルトの径、材質、強度を適切に選定して、高目の軸力を設定することで対策が可能です。

⑵ ナットまたはボルトの座面部分の締付部材へのめり込みによるゆるみ

ボルトの頭部座面またはナットの座面が、ボルトを締結した時に導入される軸力によって締結部材の表面にめり込んだ状態となり、結果として締結長さが減少することになり、軸力が低下してゆるみを生じることがあります。このようなゆるみを「陥没ゆるみ」と呼び、大半はある程度ゆるんだ後に、締結部材の表面の加工硬化によってゆるみの進行は停止します。

この場合は、締結軸力によってもたらされる座面での面圧を締結部材の限界面圧より小さくすることにより解決できることが多く、座金の採用や締結部材の材質強度アップが有効な対策となります。

 

⑶ 部材の間に挟んでいるシール等のへたりによるゆるみ

締結部材の接合面の間からガスや水、油等が漏れるのを防止するためにシールやガスケット等を接合面に挟んで締結することがあります。シールやガスケット等の多くは、被弾性材料であったり、締結部材よりも強度が低い材料であることが多く、外部からの力が作用した時これらにへたりが生じ、結果として締結長さが減少することで軸力が低下し、ゆるみが生じます。シールやガスケット等のへたりがある程度進行すると、大半はゆるみの進行も停止するため、多くの場合、増し締めを行って初期締付の状態に戻すことで解決します。

⑷ 接触部分の微動磨耗によるゆるみ

内燃機関のコンロッドのように、割り型同士の接触面で発生する微動摩耗によって、ボルトにゆるみが生じることがあります。ある程度の初期ゆるみは必然的に生じますが、多くの場合は、ある程度ゆるんだ後はゆるみの進行が停止するため、増し締めを行って初期締付の状態に戻すことで解決します。

 

⑸ 外部からの熱影響によるゆるみ

締結部材の材料として使用される炭素鋼鋼材は、500℃前後の温度になると再結晶して、残留応力が消失します。ボルトに導入される軸力は、内部応力であり、一種の残留応力です。ねじ締結体が外部から熱を受けた場合、導入されている軸力が消失してゆるみが生じます。この種のゆるみは、外部からの熱を遮断するしか防止対策はありません。

 

4. ゆるみの原因 〜ナットが戻り回転して生じるゆるみ〜

⑴ 外部からの衝撃力によるゆるみ

●ボルトの軸と直角方向に作用する外部衝撃力によるゆるみ

ボルトの軸と直角方向に外部から衝撃が加わると、ボルトの頭部側座面またはナットの座面で生じている摩擦力では支えきれなくなり、座面に滑りが生じるようになります。するとボルトが傾きねじれが発生、ナットは左回転してゆるみ方向に回り、ボルトに導入されている軸力が低下してゆるみが進行します。

 

●ボルトの軸方向に作用する外部衝撃力によるゆるみ

ボルトの軸方向に外部から衝撃が加わると、ボルトには伸び方向、一方ナットには圧縮方向の衝撃が加わります。このような衝撃が、締付軸力によってボルトとナットのねじ面に生じている圧縮力を超えると、ボルトのねじ面とナットのねじ面は反発により瞬間的に離間が起こり、次の瞬間に元に戻り再びねじ面は接触。このようなねじ面の離間・再接触が、ナットの戻り方向である左回転をし、ゆるみを生じる原点となります。繰り返しこの現象が起こると、ボルトの軸力を超え、ナットのゆるみが進行します。

⑵ 締付部材間の相対的な変位によるゆるみ

●ボルトの軸回りの回転変位によるゆるみ

ボルトの軸回りの方向に締結部材が変位しようとすると、ボルトの締結軸力によって生じている摩擦力では支えきれなくなり接触面に滑りが生じます。締結部材が右回りの回転では、座面において滑りが生じ、ナットは締付方向なので回りません。締結部材が左回りの回転では、ナットは締結部材に乗って戻り方向である左回転をしようとします。このような現象が繰り返されると、締結部材の左回りの回転のたびにナットは戻り回転を蓄積していくことになり、ナットのゆるみが進行します。

 

●ボルトの軸に直角方向の平行な変位によるゆるみ

ボルトの軸に直角方向の平行に締結部材が変位しようとすると、ボルトの姿勢は中立位置から左傾、右傾とその姿勢が変化しようとします。姿勢の変化に伴って、ボルトのねじ面がナットのねじ面の上を滑り、ボルトの軸部にはねじれが生じます。一方で、ナットの座面は部材の上を滑り、滑りとともにボルトのねじれを解消する方向に回転しようとします。これはナットの戻り方向の左回転です。このような現象が繰り返されると、締結部材の平行移動のたびに、ナットは戻り回転を蓄積していくことになり、ナットのゆるみが進行します。